月の記録 第40話


シャルル・ジ・ブリタニアがブリタニア皇帝となってから始まった侵略戦争。
武力による侵略が10、降伏により属国となったのが1。合計11の国を皇帝シャルルはまたたく間に手中に収めた。しかし、皇暦2010年以降武力による侵略は行わず、内乱と国境での小競り合い以外で大きく軍が動くことはなかった。
急激に国土を広げれば制御が難しくなる。だから一度攻めの手を止めたのだろう。植民地での内政を整え終えたら、再び侵略が始まる。誰もがそう思っていた。しかし、 この8年の間に、ブリタニアは他国を圧倒するほど強力な武力を育てていたのだ。
その最たるがナイトオブラウンズ。
ナイトオブセブンとなったばかりの、武功だけで言うならば無名な騎士が、たった1騎で1つの国を降伏させ、世界に激震が走った。しかもそのラウンズは、歴史上唯一の外国人。極東の島国が、ブリタニアとの戦争を避けるために差し出した人質だった。
そんな只の人質が皇帝の騎士となり、これだけの成果を残すに至ったのだ。
何よりも世界を恐れさせたのはその思考。
その少年は日本国首相の嫡子だった。
世襲制ではないが、立場だけで言うならば国のトップの息子なのだ。
日本には象徴である天皇がいるが、あくまでも国を動かす立場だけで言うならば、セブンはブリタニアの皇子、皇女とほぼ同じはずだった。
だが、その首相の息子、枢木スザクは自らブリタニアに膝をつき、皇族騎士となることを望み、皇帝の騎士となることを喜び、心からブリタニア皇族に忠誠を誓い、頭を垂れているという事実。日本よりも、ブリタニアを優先にする思考。友好国の元首の嫡子に対し、明らかな洗脳が行われていることを、隠すこと無く世界に公表している。
これは日本に対する挑発だった。
スザクを呼び戻し、ブリタニアと闘う姿勢を見せるべきだという世論が高まっていたが、もし日本とブリタニアが争った場合、スザクは間違いなく先陣を切って祖国に攻め込んでくる。ブリタニアを裏切り、日本につくに決まっていると言うものは多いが、それは間違いだと首相自らが否定した。
もし、日本がブリタニアに仕掛けてくるようなことがあれば。

「その時は、自分が先陣を切ります・・・容赦はしません」

息子はまるで別人のような声と表情で、そう告げていた。
親に対して向ける子の表情ではなかった。
敵を見る、騎士の顔。
枢木ゲンブは、その時初めて息子の姿をしたその人物に恐怖を覚えた。
こうなるとがわかっていたならば、人質として送らなかっただろう。
それだけの才能があるならば、日本で育て、戦力とすべきだった。
だが、それは全てifの話。
結論が出てから考えた選択に過ぎない。
もし日本にいたなら首相の嫡子だからと、軍人になることはなかっただろう。
ブリタニアとしては、日本人のスザクと日本軍が戦った所で痛くも痒くもないし、黄色い猿同士が争っていると笑うだけだろう。ブリタニアに人質を送っているのは何も日本だけではない。他国の者達も、自分たちが留学という名目で差し出した者達がどのような洗脳を受けているのか、最悪の想像を巡らせるしか無かった。
だがそれは、皇暦2017年までの話。

皇暦2018年。

歴史は最悪な方向へと動き始めた。

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